#11 犬とねこのように/Like cats and dogs

【ぼく】7月11日
 
 サンフランシスコのホテルでこれを書いている。ホテルの壁には大きく引き伸ばされた自分の絵。120ある全客室及びロビーの天井にぼくのイラストが使われている。横にいるこかりのお(なか)は妊娠4ヶ月目に入って少しぽっこりしてきた。何もかもが非現実的。あまり考えすぎるとパニックになりそうなので、とりあえずいつものようにこの日記を書いて気を落ち着かせている。
 
 今回、サンフランシスコに来たのは、内装を担当したこのホテルのオープニングパーティーのためだ。香水の仕事以来、2年ぶりの大仕事だった。しかも、依頼してくれたのは、大学時代の親友。広告代理店のアートディレクターになった彼がぼくの絵を推してくれたのだ。持つべきものは親友、香水の時も今回も、友達には助けられてばかりいる。みんなにこうやって良くしてもらって、いつかちゃんと恩返しができるようにがんばらないと。
 
 妊娠4ヶ月目に入ったこかりのことは心配だったけれど、産婦人科のお医者さんに旅行のOKはもらえたし、旅費も全部クライアント持ちということだから、強行した。何よりも、このチャンスを逃したら、もう当分旅行なんて行けそうになかったし。ホワンは、こかりの実家で面倒見てもらっている。ぼくらだけで旅行に出ることに気がついたのか、これ以上ないくらいのふてくされ顔をしていたけれど。スマに八つ当たりをしていないか心配、何かおみやげ買っていくからね。
 
 5年ぶりのアメリカ、おそらく10年ぶりのサンフランシスコは、自分でも意外なほど楽しめている。気候も最高だ、暑さは日本とそれほど変わらないかもしれないけれど、ジメジメしていないから過ごしやすい。アメリカに16年間住み、最後の方はいやなところばかり目について、半ば逃げ出すように日本に帰ってきたけれど、遊びに来るだけならやっぱり最高かも。サンフランシスコの港も、ゴールデンゲートブリッジも、美しい坂も、巨大なホットドッグも、クラムチャウダーも全部、全部、好き。学生時代にはよく、友人たちとLAからドライブして来た。砂漠の一本道を9時間ぶっ続けで走るのだ。ずーっとまっすぐな道なので、いつも睡魔との戦いだった。そういえば、ブリットポップ全盛期だったので、OasisのLive Foreverを眠気覚ましにみんなで合唱してたっけ。楽しかったな。あの曲を歌っていると本当に不死身になったような気がしてた。
 
 昨日のパーティーでは、そんな学生時代の友人のひとりであり、今回の仕事を依頼してくれたタイラーにも久々に会えてうれしかった。スカイプ越しに頻繁にカンパイしているとはいえ、やはり実際に会うのは違う。昔と変わらずハグが強すぎて、一瞬、息が止まったよ。
 

【ミー】July 11th
 
 ミーはおこっている。とてもアングリー。いきなりバッグにおしこまれて、スマハウスにつれてこられたのだ。おまけに、コカリとタイラーは、そのままどこかにエスケープ。どういうことだ。ひさしぶりに会うスマが、うれしそうな顔で近づいてきたので、ねこパンチをおみまいした。
 
 コカリとタイラーは、夜になってももどってこなかった。帰ってきたらすぐかみついてやろうと思ってエントランスでまっていたら、「バアバ」が「あら意外。ねこもあんがいチュウセイシンが強いのね、いつかホワ公のドウゾウ建てないとね」などとわけのわからないことを言ってわらった。そういえば、コカリのペアレンツがさいきん、「バアバ」と「ジイジ」にいきなりネームチェンジしたのもわけがわからない。
 
 スマはあいかわらずルーザーだ。バアバといっしょにいるときだけ、ミーに向かってワンワンワン。ミーをフォローしてかいだんをクライムしては、おりられなくなる。バアバが買ってきた「celeb dog」なんて書いてあるシャツをうれしそうに着ている。セレブドッグって。タイラーが好きだったパリス・ヒルトンのドッグはこんなよれよれのシャツなんて着ていなかった。
 
 しかし、そんなルーザーなスマがバックヤードからエスケープしたのにはおどろいた。アウトサイドワールドはスケアリーだ。ミーは、ジョーを思い出してふるえた。バアバとジイジが夜になってもサーチしていたけれど、スマは見つからなかった
 
 コカリもタイラーもいなくなって、こんどはスマ。このハウスはのろわれている。次はミーかもしれない。ロンリーなルームでふるえていると、ドアベルがなった。バアバがドアを開けると、ポリスマンが立っていて、バアバをよんでいた。バアバが開けっぱなしにしたドアからミーも出ていくと、なんとポリスカーにのせられたスマがいた。よかった、生きていたのか。スマはルーザーだけれど、マイ・ブラザーだ。いなくなったらやっぱりさみしい。それに、くやしいけれどポリスカーにのっている姿はクールだった。うらやましくて、ポリスカーのまわりをうろうろしていたら、バアバに首ねっこをつかまれた。「もう、ミイラとりがミイラになるわよ」
 
 ミイラ。ニューポートビーチのハロウィンでよく見たモンスターだ。ほうたいを巻けばイージーに変身できるのでポピュラーだった。でも、ミーは本物のミイラを見たことある気がする。ニューポートビーチに住んでいたときよりも、もっともっともっと昔に。
 

ねこようせいによる「ねことわざ」解説

Like cats and dogs

(犬とねこのように)

「Like cats and dogs」は犬猿の仲という意味。英語だと「犬とねこ」なのに、日本語だと「犬と猿」になるのがおかしいよね。どこかの言葉では、ねこと猿の組み合わせもあったりするかもね。ちなみに、このフレーズのバリエーションとして、土砂降りの雨を意味する「It’s raining cats and dogs」というものもあるんだけれど、犬とねこがケンカしながら降ってくる様子を想像するとちょっとかわいい。ちゃんと砂場とか柔らかいところに着地するんだよ。

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北澤平祐プロフィール

北澤平祐(きたざわ・へいすけ)
イラストレーター。東京都在住。アメリカに16年間在住後、帰国しイラストレーターとしての活動を開始。
多数の書籍装画や、花王、東京ソラマチ、渋谷ヒカリエなどのキャンペーンビジュアル、ファミリーレストランCOCO'Sのメニューイラストや、洋菓子のフランセ、キャラメルゴーストハウス、KENZO Parfumsの商品パッケージ等、国内外の幅広い分野でイラストを提供。
オフィシャルサイトwww.hypehopewonderland.com