#04 ねことねずみのように/Play cat and mouse

【ぼく】9月4日
新しい環境にはじめは戸惑っていたホワンホワンも段々と慣れてきたのか、高い所に登ったりして楽しそう。8畳一間であっても、子猫から見ればお城くらい広く感じているんだろう。
ぼくがここに引っ越してきた当初はとまどうことばかりだった。玄関を開けていきなりのキッチンや、コンパクトすぎるユニットバスなど、幼少期から慣れ親しんでいた無駄に広いカリフォルニアの住宅とは何もかも違っていた。さらに、敷金礼金や部屋を借りるための家主との面接など日本特有のシステムにも驚いた。
あの面接は苦い経験だった。当日はこかりの指導の下、ネクタイを締め、菓子折りを下げて挑んだおかげで「君たち若いのにしっかりしてるねえ」と、大家さんも初めはニコニコしてくれていた。しかし、イラストレーターをしていると伝えた途端、表情が一気に曇った。ぼくはあわてて、イラストを担当した雑誌の切り抜きなどを見せたが、「定期収入がないとなあ、連載とか?」と聞かれたが、そんな輝かしい仕事はもちろんなかった。
もうだめだと思い、帰ろうとしていたら「なんだ、これを早く言ってよー、これならOKOK」と、大家さんが笑いながら言った。ぼくらの保証人である義父が大手企業の役員をやっているという記載を読んだのだ。
こかりは「私たちだけのお城、借りられてよかったね!」と無邪気に喜んでいたが、ぼくは複雑だった。イラストレーターなんて何の信用もなく、こんな小さな部屋一つ自力で借りられないと言われたのも同然なのだから。

#04
【ミー】September 4th
オシロはきゅうくつだ。かくれるところがないのでいつもやつらにみはられているきがする。もしかしたら「オシロ」とはジェイルのことなのかもしれない。なにもバッドなことしていないのになぜこんなところにとじこめられないといけないのだ。
オシロではなにもできない。ちょっとランニングすれば、「しーっ、キンジョメイワク」とコカリからストップがかかり、ウォールでネイルをとごうとすれば、「おおやさんにオコラレル!」と、タイラーがとんでくる。スマハウスがなつかしい、あそこはヘヴンだった。はやくかえりたい、スマにあいたいわけじゃないけれど。ほんとうだよ!
おさえつけられたら、よけいにやりたくなる。そうだ、ミーはフリーだ。すきあらば、ルームをかけまわり、ネイルをといだ。タイラーがおいかけてきたときは、たかいところにエスケープした。ここならやつらもミーにとどかない、だれもミーをとめられない。
そんなミーでもひとつだけまもっているいいつけがある。それは、けっしてオシロのそとにでてはならないということだ。なぜかというと、「そとにはこわいひとがいるから」らしい。そんなおどし、はじめはノーズでわらっていた。ランドリーのためにコカリがウィンドウをあけたら、このジェイルからエスケープしようとおもっていた。
あのジョーとかいう、スケアリーモンスターをみかけるまでは。