12 映画デート

 大学受験に失敗し高校を卒業したあと、浪人生として過ごしていたのですが、その当時お付き合いをしていた女性とデートに行くことになりました。

 

 その人は福山雅治とジャニーズの滝沢秀明が好きな、見た目は大人しい雰囲気の子でした。
 彼女とは高校3年生の時にお付き合いをすることになりました。在学中こそ同じクラスにはなりませんでしたが、同じ中学校の出身だったことが、お付き合いをする最大のキッカケであったと思います。

 

 僕が入学した高校には中学の同窓生は3人しかおらず、その内の1人はいつの間にか学校から姿を消していたので、実質的には僕と彼女しかいませんでした。ですから、話をするキッカケには困らなかったのだと思います。

 

「付き合おう」と言い出したのがどちらであったかあまり覚えていないのですが、当時流行(はや)っていて僕も持っていたポケットベル、しかし誰からも便りが送られてこないポケベルにメッセージが入ってくる! というだけで、僕はとても楽しかったことを覚えています。

 

 さて、彼女とのデートで映画を()に行こう、と言い出したのは僕でした。
 恋人たちのデートとして定番の映画鑑賞は、不慣れで()が持たないデートの時間を2時間ほど消費でき、(さら)にその後共通の話題も出来るというとても(すご)い効果を発揮するものです。

 

 あとは、適切なジャンルの映画をチョイスするだけなのですが、僕が選択した映画と言えば、

 

『リーサル・ウェポン4』でした。

 

 若い恋人たちが観に行く映画であれば、例えば『タイタニック』ですとか、『ノッティングヒルの恋人』なんかがおあつらえ向きだと思うのですが、僕が選んだ映画はよりによって『リーサル・ウェポン』。しかも『4』でした。

 

 リーサル・ウェポンは、メル・ギブソンとダニー・クローヴァーが出演している骨太のアクション映画で、娯楽映画としてはとてもいい映画なのです。
 いい映画なのですが、いかんせんシリーズの4作目。
 1987年に第1作目が公開され、そこから主人公たちになんやかんやあっての4作目です。

 

 おそらく彼女はこのシリーズを観たことはなかったでしょう。もっとも僕も全シリーズを観ていなかったのですが。

 

 この映画を選んだ理由は、今回新たに悪役として出演しているジェット・リーというアクション俳優が好きで、彼を観たいがために選んだのです。元々ジェット・リーはリー・リンチェイという名前で香港アクションスターとして活躍していたのですが、人気も高まりハリウッドへと進出したその第1作目がこの『リーサル・ウェポン4』でした。

 

 彼女が好きなのは、福山雅治とジャニーズの滝沢秀明。
 かたや、メル・ギブソンとダニー・クローヴァーとリー・リンチェイ。

 

 肉弾戦の対決であればリーサル・ウェポンサイドに()があるでしょうが、コンサートで振られる団扇(うちわ)対決(つまりは日本の女性人気)なら、大敗を喫してしまいそうです。

 

 つまりこの映画のチョイスは100%自分の趣味であり、相手のことなど何も考えていなかったことが(うかが)えます。

 

 しかし、それでも娯楽映画なのですから、一緒に鑑賞すればその後の会話も盛り上がったはずです。

 

 何故(なぜ)ここで仮定形なのかというと、僕らはその映画を別々に観たからでした。

 

 待ち合わせの時刻、僕は映画館の前で待っていたのですが、持っていたポケットベル(東京テレメッセージのテクノジョーカー)に一通の便りが届きました。

 

『2152394713331226112434444』

 

 ポケベル世代ではない人は「なんのこっちゃ」と思われることでしょう。
 僕が使っていた頃のポケットベルは、数字を2つ使って1文字に変換するという2タッチ入力機能で、カナ文字やアルファベット文字を送りあうことも出来るようになっていました。

 

 例えばア行は1、カ行は2と最初の数字は行に対応しており、「ア」なら「11」、「セ」
なら「34」と入力する必要があります。
 当時、携帯電話は主流ではありませんでしたので、外出時などは公衆電話を使って、任意の数字を何度も押すことで文字情報をやりとりしていました。
 日本語対応表を持ち歩く人や、暗記している人が大勢いましたし、物凄い速度で文字を打ち込む名人みたいな人も散見されました。

 

 その日本語対応表にならって上記の文字列を変換しなおすと、

 

『カニNQウスイFアケセテ4』

 

 なんのこっちゃ、と思われたことでしょう。
 もう一つ、当時のポケットベルでカタカナを送信する際には特殊な操作が必要で、送りたいメッセージの前に「※2※2」と入力する必要があるのです。

 

 ただ、急いで文字を打つとボタンを連続で押してしまい、結果として文字数がずれてしまい、訳が分からない数字の羅列が送られてくる、という現象も多々発生していました。

 

 上記の場合は「※2※22」と「2」を多く打ってしまったのでしょう。
 本来、彼女が送りたかったメッセージは、

 

『オクレマスサキハイツテテ』

 

 遅刻をしているので先に映画館に入っていて、という内容でした。
 ポケベルに慣れている人は、打ち間違えた数字の羅列が送られてきても瞬時に解読出来るという、なかなかの名探偵ぶりを発揮していた人が多かったです。

 

 さて、この場合どうするべきだったのでしょうか。
 映画は間もなく始まってしまいます。しかし、彼女がいつやってくるかは分かりません。
 そして僕はこの映画をとても観たいのです。そして、「先に入っていて」の文言。

 

 当時の僕は、『一人で映画館に入る』を選択しました。
『今日は映画を観ない』とか『遅れて二人で入る』という選択肢も考えはしましたが、相手が「先に入っていて」と言うのだから、お互いの願望は一致していると判断したのです。

 

 今思えば、それは遅れている後ろめたさからくる、こちらを気遣った提案であったと思いますが、女心(女性に限ったことではないのかもしれませんが)の分からぬ当時の僕には、そこまでの考えには至りませんでした。

 

 映画はとても面白かったです。
 ジェット・リーもいい塩梅(あんばい)で活躍をしていて、大満足の映画体験でした。

 

 映画が終わり、劇場が明るくなってから、離れた席に座っていた彼女と無事合流を果たしました。
 その時の彼女はなんとなく浮かない顔をしていたように思います。
 映画館を出た後、僕はジェット・リーについて分かってもらおうと熱弁を振るったのですが、それも(かんば)しくない反応でした。

 

 僕は色んなことを間違えてしまったようです。
 そして、この一件だけが原因というわけではおそらくなかったのでしょうが、その後しばらくして彼女とはお別れをすることになってしまいました。

 

 彼女は今や2児の母として(たくま)しく生活されているようで、ややもすると肉弾戦でもリーサル・ウェポンチームに勝てそうな雰囲気がありますが、あの時のデートプランに対してどう思ったのか、それを聞く勇気はありません。

 
 

教訓
デートでの映画選びは、自分の趣味を(ひか)えるべし──賽助

毎月第2、第4火曜日更新

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賽助プロフィール

賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、和太鼓パフォーマンスグループ「暁天」に所属し、国内外で演奏活動を行っている。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』がある。
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
●和太鼓グループ「暁天」
公式HP https://peraichi.com/landing_pages/view/gyo-ten



山本さほプロフィール

山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。その他の著書に『無慈悲な8bit』『いつもぼくをみてる』等。Twitter上でも1頁エッセイ漫画『ひまつぶしまんが』を不定期に掲載。