15 リアル型脱出ゲーム①

 リアル型脱出ゲームというものをご存知でしょうか?

 

 とある会場に集まった参加者たちが、そこで出題される様々な(なぞ)を協力して解き、その場所から脱出するという体験型のイベントです。

 

 先日、ポケットモンスター、通称ポケモンとコラボレーションした〈リアル脱出ゲーム〉が開催されていると知りました。

 

 僕はだいぶ大人になってからポケモンが好きになったタイプで、若干歯止めが利かなくなっている(ふし)があり、この情報を聞きつけてからというもの「行ってみたい……」という思いが(うず)いていました。

 

 しかし、リアル型脱出ゲームについて詳しく調べてみたところ、多くのイベントはその場で即席のグループを組んで謎を解くタイプのものらしく、大多数の人は仲のいい友達と、あるいは家族と、もしくは恋人と一緒に参加するのが常のようでした。

 

 そして、このポケモン脱出ゲームも漏れなくその部類であり、6人組を作って謎に挑戦するようです。SNSを見ると「友達と行った!」「家族で遊んだ!」などというものばかりが並んでいました。

 

 さて、このエッセイを読んだ下さっている皆様はお気付きかと思いますが、僕にはそんな(もよお)しに一緒に参加してくれる友達がいません。
 かと言って、まさかこの(とし)になって実家に居る家族に連絡し「ポケモン脱出ゲーム行きたい行きたい!」と駄々(だだ)()ねて連れ出すわけにもいきません。

 

(1人で行くしかないか……)

 

 法律には(うと)いのですが、『1人でリアル型脱出ゲームに参加するのは禁止』という法律はないでしょう。
 その証拠に、〈リアル脱出ゲーム〉のチケット購入ページを見ると、1枚から選択出来るようになっているので、つまり1人での参加も公式に認められていることに他なりません。

 

(やってやるぞ……!)

 

 僕は意を決し、チケットを1枚予約。当然の(ごと)く、一般のチケットより高額のオリジナルグッズ付きのチケットにしました。

 

 さて、チケットを予約してからというもの、僕は常にソワソワとしながら過ごしていました。
 6人組なのですから、知らない人とグループを組まされることは確実です。そして、その人たちは、おそらく僕なんかよりもずっと若い人たちでしょう。

 

 国民的人気ゲームであるポケモンとのコラボ。(さら)には夏休み真っただ中なので、家族連れの参加者も多いでしょう。
 もしも家族5人組と一緒になってしまったら、遠縁のおじさんのふりをしようかな……なんて心配していたのですが、この〈リアル脱出ゲーム〉は『ファミリーテーブル』と『スタンダードテーブル』の二つのコースに分かれているため、僕が参加する『スタンダードテーブル』に家族連れの人たちが紛れ込むということは無さそうです。

 

 しかし、仲良し5人グループで参加することはあるでしょう。

 

 もし、僕以外の5人が全員知り合いだったら?
 いい歳の男が1人で来ていたら、引かれるんじゃないだろうか……?
 その人たちがパーティーピーポーだったらどうしよう?
「えっ? 1人で参加してるんスか?」
「マジリアルぅー!」
「もはや伝説のリアルポケモンじゃね?」
 などと言われてしまうかもしれません。
 そんな彼らとちゃんとお話し出来るんだろうか……?

 

 あれこれと想像して、その度に行こうか行くまいかと悩んでいたら、やがてイベント当日になりました。

 

(ええい、とにかく行くしかない!)

 

 僕は自らを奮い立たせます。

 

 会場へどんな格好で行くか悩みましたが、僕はポケモン関連のTシャツ(フシギバナというキャラクターが前面に大きく描かれている)を着て行くことにしました。

 

 ポケモンの〈リアル脱出ゲーム〉ですから、折角(せつかく)ならばイベント感を出したかった……という理由もありますが、やはり1人で行くのですから、せめて「自分はポケモン好きです!」とアピールをしないと、「こいつずっと黙ってるけど何しに来たんだ」といよいよ冷たい目で見られるかもしれないと思ったからです。

 

 つまり、このTシャツが「僕はポケモンが好きなだけで、隅の方で静かにしていますが決して(あや)しいものではありません」という名刺代わりになるわけです。
 本当ならば、ポケモンの中でも主役級の存在であるピカチュウのTシャツにしても良かったのですが、ちょっと可愛(かわい)さが(あふ)れ過ぎて周囲の人たちに引かれてしまうのではないか……と思案した結果、若干可愛さの面では落ち着いていると思われるフシギバナを選択しました。

 

 それに、ずっと悪い想像ばかりしていましたが、良い方に転ぶ可能性だって十分にあるのです。

 

 僕は作家です。作家とは言葉を操る職業です。ジャンルとしてはミステリー作家ではありませんが、小説の中に謎を登場させることもありますし、謎解きはそれなりに得意であるとの自負もあります。

 

 例えば、運悪く僕以外の5人が顔見知りだったとしましょう。
 しかし皆が出題された謎に頭を(ひね)っている中、僕がポツリと「この謎はこういうことじゃないですかね……」と答えを導きだしたらどうでしょう?

 

「この人……(すご)い……! やっぱり1人で参加しているのは伊達(だて)じゃない!」

 

 というような感じになるのではないでしょうか?

 

「マジ伝説じゃね? つかマジ()れたんですけど……」

 

 みたいにモテモテになる可能性だってあります。
 そう考えると、俄然(がぜん)やる気が()いてきました。会場へ向かう足取りも心なしか軽く感じます。

 

 目的の場所は新宿(しんじゆく)歌舞伎(かぶき)(ちよう)。入り組んだ路地の先にあるビルの中です。
 入場列に並んでいる際、僕はある恐ろしい事実に気が付きました。

 

 脱出ゲームに参加する人たちの中に、ポケモン関連のグッズを身に着けている人がまるで居なかった――という事実です。

 

 正確に記するなら、子供たちの中には、ポケモンの意匠(いしよう)が施された衣服を身に着けている人も居ました。
 しかし彼らはファミリーテーブル。僕と交わることはありません。僕と同じくスタンダードテーブルに参加する大人たちの中で、ポケモン関連のグッズを身に着けている人は、見る限り僕しか居なかったのです。

 

(これ、相当な浮かれ気分野郎だと思われるじゃないか……)

 

 僕は(あわ)てて肩がけ(かばん)を前方へずらし、Tシャツの模様を隠しました。
 Tシャツに描かれたフシギバナは、背中から鮮やかな花が咲いているカエルのような姿をしているのですが、そのカエル部分を鞄で隠してしまえば、人から見える部分は花だけになり、「この人はハワイ帰りなのかな?」と思われるくらいで済むかもしれません。

 

 係の人に案内された僕は、鞄を前方に抱え、やや前かがみの状態で、まるで盗難の被害を恐れている観光客のような姿勢で会場の中へ入ります。

 

 会場内には沢山のテーブルが等間隔に置かれていました。その周りに並べられた椅子(いす)にはそれぞれ参加者が座っており、どの席に座らされるかで当日のグループが決定するようです。

 

 僕が案内された席には、すでに4人の参加者がいました。
 年齢は大学生くらいでしょうか。4人とも男性で、どうやら友達同士のようです。大人しそうな見た目ではありますが、向こうから明るく挨拶(あいさつ)をしてくれるほど社交的であり、ホッと胸を()で下ろしました。

 

 しかし、席に着くや(いな)や係の人に「荷物は椅子の下に置いて下さい」と言われ、僕は軽く絶望しました。

 

 指示に従い鞄を置くと、フシギバナが現れます。
 なるべく自然体を装いつつ、可愛らしいTシャツを(さら)け出しながら席に座り、周りの様子をうかがいますが、僕がポケモンTシャツを着ていることに気が付いていないのか、誰も反応を示しませんでした。

 

(バレてない……良かった)

 

 僕はホッと胸を撫で下ろします。

 

 テーブルの周りには僕を含めて5人の男が座っています。このままの状態で始まるのかと思いきや、イベント開始時刻のギリギリくらいに、係の人に案内されて1人の男の人が僕の右隣に座りました。

 

 見るからに好青年といった風貌(ふうぼう)で、「(よろ)しくお願いします!」という挨拶にも人当たりの良さが(にじ)み出ています。

 

(僕以外にも男1人で参加する人は居るんだな……)

 

 ある種の仲間意識を抱きつつ、やがてイベント開始時間となりました。
 まず、目の前に6枚のカードが配られます。そこには代表的なポケモンであるピカチュウ、リザードン、フシギバナ、カメックス、ニャース、トゲピーが描かれており、その横にはそれぞれのポケモンの必殺技や特徴が(しる)されています。

 

「この中から1枚のカードを選んで下さい。貴方(あなた)はそのポケモンのトレーナーになります」

 

 係の人にそう言われ、僕は真っ先にピカチュウのカードを見つめました。
「どれでもいいので、好きなのを選んで下さい」と仲良し4人組の1人が勧めてくれます。

 

(出来ればピカチュウがいいな)

 

 なんて考えていたのですが、

 

「貴方はフシギバナですよね!」

 

 左側の男性が、笑顔でフシギバナのカードを手渡してくれました。
 完全にTシャツを見られていたのです。
 恥ずかしさのあまり(うつむ)いてしまいましたが、おそらく僕の顔には(あか)い花が咲いていたことでしょう。

 

「あ、じゃあ僕はピカチュウでいいですか?」
 右隣の男性が颯爽(さつそう)とピカチュウを手にしました。

 

 僕は手にしたフシギバナのカードを、ぶら下げるタイプのカードホルダーに入れます。
 Tシャツとカード、2匹のフシギバナが僕の胸元に生息することになりました。

 

『フシギバナ大好きおじさん』の誕生です。
 ここで、僕はすっかりメンタルをやられてしまったのですが、〈リアル脱出ゲーム〉はむしろこれから始まることになるのです。

 

―次回へ続く―

 

教訓
キャラクターもののTシャツを着るなら、しっかり心まで着飾るべし──賽助

毎月第2、第4火曜日更新

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賽助プロフィール

賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、和太鼓パフォーマンスグループ「暁天」に所属し、国内外で演奏活動を行っている。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』がある。
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
●和太鼓グループ「暁天」
公式HP https://peraichi.com/landing_pages/view/gyo-ten



山本さほプロフィール

山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。その他の著書に『無慈悲な8bit』『いつもぼくをみてる』等。Twitter上でも1頁エッセイ漫画『ひまつぶしまんが』を不定期に掲載。