19 あの日あの時、あの文化祭で②

【前回のあらすじ】
中学3年生の文化祭でお芝居をすることになったのだ。そこで僕は、重要な役が(もら)えると言われ嬉々としていたのだが、(ふた)を開けば何もなし。おかげで文化祭の思い出もなし。
そんな僕も高校へ入学。
あの悲劇から1年後、再び文化祭がやってくるのだが──。

 

 高校に入学した当初、僕はギター部に所属しており、演劇とは無関係な学生生活を送っていました。中学生時代、とにかくイケてなかった自分をどうにか向上させようと僕が選んだものがギターだったのです。

 

 この高校には軽音楽部がなく、ギター部はその代わりのような立場にありました。ギターをきっかけに音楽に触れていき、次第に部活のメンバーとバンドを組むというのが一つの流れになっているようです。

 

 僕は一度もギターに触れたことはありませんでしたが、それでも入部した理由は、当時放映されていたアニメ『マクロス7』に登場するキャラクター、熱気(ねつき)バサラに憧れていたからです。

 

 しかし「アニメの影響で……」というのはあまりにもイケてない気がしたので誰にも言いませんでしたが、僕が一番初めに買ったエレクトリック・アコースティック・ギターの表面には小さく『Fire Bomber』(マクロス7において熱気バサラが所属するバンド名)と書いていました。

 

 この当時はアニメが今ほど市民権を得られておらず、アニメ好きというのは『イケてない人たち』という印象が強い時代でした。
『イケてない人』というイメージを払拭(ふつしよく)するためにギターを弾こうとしているのに、その導入が『イケてないと思われがちなアニメ』の影響というのはいささか倒錯気味ですが、ギターといえばイケてる男の代名詞であろうと考えていました。

 

 しかし、結局僕はギター部を一年ほどで()めることになります。
 ギターを弾くこと自体はとても楽しかったのですが、ギター部の活動はたいして面白く感じなかったのです。
 理由としては、やはり軽音楽部の色が濃い部活であり、誰も彼もがバンドを組みたがったのですが、僕としては一人で静かにギターを()()らしている方が(しよう)に合っていたからでしょう。

 

 ギターを弾く上で最初の難関である『Fのコード』を押さえられるようになったので、もう教わることは何もないな! と勘違いしていたのも大きいかもしれません。

 

 しかし、僕が通っていた高校は必ず部活動に所属せねばなりません。
 ギター部を辞めるのならば、別の部活を探す必要がありました。

 

 そしてその時、とても魅力に感じていたのが他ならぬ『演劇部』だったのです。

 

 高校1年の文化祭。
 まだギター部に在籍していた僕は、高校の体育館のステージの上で、部活の先輩たちが演奏するボン・ジョヴィの『Someday I’ll Be Saturday Night』を聴いていました。

 

 先輩たちの演奏が終わると、次は演劇部によるお芝居が始まるとのアナウンスがありました。
 僕のクラスメイトにも演劇部に所属している男子生徒がおり、彼とはとりあえず仲良くしていたので、付き合いとばかりに観てみることにしたのです。

 

 演目は演劇集団キャラメルボックスの『嵐になるまで待って』でした。そして物語の核となる人物を演じていたのは、他でもない僕のクラスメイトだったのです。

 

 お芝居の面白さもさることながら、自分のクラスメイトが、まだ1年生にもかかわらずとても良い役を与えられていたこと。そして更に付け加えれば、彼は決して『人気者』の部類ではなく、どちらかと言えば僕と同じ部類に属する人間だったことに感動を覚えていました。

 

(演劇部でなら僕もいい役が貰えるのか……?)

 

 客席のパイプ椅子(いす)に座りながら、僕は(かす)かに興奮していました。

 

 文化祭が終わってしばらくした後、僕はギター部に退部届を提出し、演劇部の門を(たた)きます。
『イケてない人』を払拭したかったにもかかわらず、あまりイケてないと思われる演劇部(※偏見です)に入部するというのはかなり倒錯していますが、どうにか自分を変えたい、何者かに変わりたいという変身願望があった自分にとって、他者に成り代わることが出来る演劇という存在はある意味最適解であったのかもしれません。

 

 かなり遅れて入部した僕を演劇部の皆は温かく迎え入れてくれました。

 

 演劇は演目によっては多数の人員を必要としますし、基本的に男子生徒不足なので(僕の代は意外にも男子の方が多かったですが)男性役を(にな)うという以外にも、舞台道具の作製や搬入・搬出要員として男子部員を(ほつ)していたのかもしれませんが、(こころよ)く受け入れてくれた当時の演劇部の面々には今でも感謝しています。

 

 余談ではありますが、演劇部の部員はほぼ4種類に分類されます。
 多くがコアなアニメ好き(声優を『苗字(みようじ)+さん』付けで呼ぶ文化を僕はここで初めて知りました)、その他に大衆演劇・映画好きが数名、寺山修司至上主義が若干名、残りは何をしに演劇部に入ったのか分からない生徒で構成されています(※偏見です)。

 

 ほぼ2年次から入部した僕が何故(なぜ)か後に部長に任命されたり、あまりに言動がきつい後輩の女子生徒を(たしな)めるため部室へ呼び出したら、その生徒が僕に襲われると感じたのかカッターを手にしていたり、他校の恐ろしいほどルーズな靴下をはいた威圧感のある女子生徒に告白をされたりと、様々な体験をさせてくれた演劇部でしたが……。

 

 思えばあの時の文化祭で僕が演劇部の出し物を観劇していなかったら――その後、演劇の楽しさを知り、もっと演劇について学びたいと芸術系の大学を目指し、そして挫折(ざせつ)を味わい今に至るという僕の人生も大きく変わっていたかもしれません。

 

 (ちな)みに、演劇部に入った僕がその後の文化祭で何かを披露することはありませんでした。
 何故なら、“高校演劇における甲子園”とでもいうべき『全国高等学校演劇大会』の地区予選が、僕が高校2年生になった時から、文化祭の開催時期と丸被りになってしまったからです。
 クラスメイトの皆がいそいそと文化祭の準備に(いそ)しむ中、僕ら演劇部の面々は、地区大会で使う大道具を会場に運ぶため、軽トラックに揺られることになるのでした。
 めでたし、めでたし。

 
 

教訓
文化祭での出来事が、人生を大きく左右することもある──賽助

毎月第2、第4火曜日更新

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賽助プロフィール

賽助(さいすけ)
東京都出身、埼玉県さいたま市育ち。大学にて演劇を専攻。ゲーム実況グループ「三人称」のひとり、「鉄塔」名義でも活動中。また、和太鼓パフォーマンスグループ「暁天」に所属し、国内外で演奏活動を行っている。著書に『はるなつふゆと七福神』(第1回本のサナギ賞優秀賞)『君と夏が、鉄塔の上』がある。
●「三人称」チャンネル
ニコニコ動画 https://ch.nicovideo.jp/sanninshow
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCtmXnwe5EYXUc52pq-S2RAg
●和太鼓グループ「暁天」
公式HP https://peraichi.com/landing_pages/view/gyo-ten



山本さほプロフィール

山本さほ(やまもと・さほ)
1985年岩手県生まれ。漫画家。2014年、幼馴染みとの思い出を綴った漫画『岡崎に捧ぐ』(ウェブサイト「note」掲載)が評判となり、会社を退職し漫画家に。同作(リニューアル版)は『ビッグコミックスペリオール』での連載後、単行本が2018年に全5巻で完結した。その他の著書に『無慈悲な8bit』『いつもぼくをみてる』等。Twitter上でも1頁エッセイ漫画『ひまつぶしまんが』を不定期に掲載。