05 パフェは、遠い日の花火ではない。

「恋は、遠い日の花火ではない。」
 往年のテレビCMの名コピーである。恋の何たるかも、人生の()いも甘いも知らない子ども心に、なぜだか印象に残るフレーズだった。
 サントリーのウイスキー「NEW OLD」。中年の男女の、恋になるとも分からないふとしたやりとりを描いたCMだった。90年代半ばのことである。
 恋は、遠く過ぎ去った人生の輝き、ではない。今もなお、火の()くきっかけを待っている花火、なのかもしれない。

 

 さて。

 

 パフェは、遠い日の花火ではない。

 

 パフェを、遠い日の花火だと思ってやしませんか。もう過ぎ去ったものとして、若者(というか子ども)の特権として、自分には縁がないものとして。……本当は、その魅力を忘れられないでいるのに。

 

 パフェを近くも遠くも感じる、という問題がある。

 

 パフェを知らない人はほとんどいないだろう。それほど日本の食文化では、パフェは身近な(身近だった)存在である。でも、それを過ぎ去ったものとして、もう卒業したものとして見なした途端、自分とは全く関係ないと、観念的に遠くへと追いやられてしまう。

 

 なまじそれを「知っている」と思っているものの方が、遠ざけられてしまうということがある。それが呪われた記憶であればなおさらだ。すなわち、「パフェのトラウマ」。いつかどこかで食べたパフェが、甘くて重くて、とてもとても食べきれずに残してしまい、以来パフェを頼むのを躊躇(ちゆうちよ)してしまう――。そんな心当たりはないだろうか。

 

 時代は移り、パフェも変わった。
 あのサントリーのテレビCMから、もう25年が()っている。当時全盛だったポケベルは携帯電話に取って代わられ、そしてスマートフォンが席巻(せつけん)する現代である。パフェも変わった。
 ずいぶんスマートになって、甘みだけを強く押し出したパフェが少なくなってきている。(つら)く苦しい経験も人生に深みを与えてくれたと納得できる頃には、人間の味覚も変化して、(から)さ苦さを快く感じられるようにもなる。そんな大人に寄り添うようなパフェが増えている、と思う。お酒に合うパフェもある、苦みを利かせたパフェもある。

 

 お酒で思い出した。サントリー「NEW OLD」ってなんなんだ。古いのか、新しいのか。パフェもそういうところがある。レトロな雰囲気と、いつまでも色あせない鮮やかさのイメージを併せ持っている。実際、パフェは日々進化している。新しい花火がどんどん打ち上がっているのだ。それを見逃してはいけない。

 

 昨年、「ショコラティエ パレ ドオール」で、花火をモチーフにしたパフェが登場した。グラス上は花火を模したチョコレートや金箔(きんぱく)つき飴細工(あめざいく)、ココナッツのクリスタリゼ。自家製アイスが5種入り、色鮮やかなジュレやクリームがグラスの下までパフェを彩っている。はじけるキャンディーも入っていて、見た目だけでなく、口の中でも、耳でも花火を感じられる演出がされている。
 パフェは、遠い日の花火ではない。目の前にある花火だ。そして、口の中いっぱいに響き渡る花火だ。すぐに消えてなくなってしまうけれど、その余韻は心の中に残り続ける。

 

▲パフェは、食べられる花火だった。ショコラティエ パレ ドオールの「パフェ パレドオール HANABI」※2018年夏の限定メニューにつき現在は提供されておりません。現在のメニューはHP(http://www.palet-dor.com/p_salon.html)をご参照ください。

毎月第2・4木曜日更新

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斧屋(おのや)

 パフェ評論家、ライター。東京大学文学部卒業。
 パフェの魅力を多くの人に伝えるために、雑誌やラジオ、トークイベント、時々テレビなどで活動中。
 著書に『東京パフェ学』(文化出版局)、『パフェ本』(小学館)がある。