02 仮想現実

 はじめてVRを体験しました。VR、ずっとやってみたいと思っていました。ヘッドセットを付けて仮想空間の中へ。ものすごく未来っぽい。攻殻機動隊の世界みたい。楽しそう。

 

 という話を友人にしたら、「バーチャルとリアルとの区別がつかなくなって現実に戻ってこられなくなりそうで怖い」と言われました。
 なるほど、確かに。そんなこともあり得そうです。バーチャルの世界にハマりすぎて廃人になったり、バーチャルの世界で死んだので現実でも死んだ、みたいなSF映画ならたくさん見たことがあります。

 

 戻ってこられなくなったり死んだりしたらどうしよう……と不安はありつつ、でもとりあえずやってみました。私が体験したのは、新宿にあったVR施設で、エヴァンゲリオンに乗って使徒と戦うことができたり、ドラクエの世界で魔王と戦うことができたりするやつでした。

 

 結論から言うと、現実に戻ってこられなくなりそうな気配はありました。ヘッドセットを付けて、三百六十度を広大なドラクエの世界に囲まれて、剣を振り回して仲間と一緒に敵を倒して、魔王も倒してよかったよかった、では係員の指示に従いヘッドセットを外してください、と言われ現実に戻ったとき、世界の狭さにびっくりしました。今まで広い草原とか岩山とかにいたのに、現実は四方を灰色の壁に囲まれたテニスコートくらいのスペースの中で、剣だと思って握っていたのはセンサーのついた棒でした。心強い仲間だと思っていたのはただの人間。現実とは? と、少し夢のような心地になりました。

 

 でも、正直思っていたほど混乱する感じではありませんでした。思っていたよりもスムーズに現実に戻ってこられた、というか、私はこれよりももっとずっと現実がわからなくなる感じを味わったことがあります。それは今なんですけど、私は今『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』というテレビゲームに鬼のようにはまっていて、昨日はマジで十時間くらいプレイしていました。最近、世界がハイラル(ゼルダの伝説の舞台)に見えるのです。

 

 始めたばかりのころは、ゲームの中に広がる美しい自然の映像を見て、わーまるで現実のようにきれいだな、と思っていました。でも今や、久しぶりに外に出て晴れ渡る空や公園の草花や川のきらめきなどを見ると、わーすごいまるでハイラルみたいにきれい、と思います。世界の基準がハイラルになっています。急こう配の崖を見るとあれくらいならひと息で登れそうだな、と思いますし、下り坂の道を歩いていると、ここジャンプしてパラセールで飛んだ方がはやい、とか無意識に考えている自分がいます。

 

 ゼルダが楽しすぎるので今そんな感じになっているのですが、私はもともとゲーム脳になりやすい性質な気がします。『バイオハザード』にはまっていたときは外を歩くひとがゾンビに見えて怖かったし、視界の中にエイムが見えました。仲間と(しやべ)れば喋るほど好感度が上がっていく『ペルソナ3』とかをやっていたときは、現実でひとと喋ったときも好感度の上がる「ピロリロ」みたいな音が脳内で鳴っていました。

 

 なので私調べとしては、脳が現実と混同するのにそこまで精巧なリアリティは必要なくて、ひとは毎日コンスタントに長時間過ごした世界を現実だと認識するんじゃないかな、と思います。『テトリス』とか『ツムツム』とか、リアリティどころかこれはいったいなんのために? みたいな延々と続くだけのパズルゲームであっても、長時間やっているとこれが私の人生の目標、このハイスコアが私の人生の得点、みたいな感覚になりますし。ゲームはきちんと時間を決めて節度をもってやるのが良いのではないかな、と思います。

 

「死んだら現実でも死ぬのではないか」問題につきましては、私は廃病院でゲームに失敗して超怖いひとに殺される体験もしたのですけれど、「目を閉じて大声を出しながら楽しいことを考えることによりVRからもたらされる情報をすべて遮断する」という対処をしたため無事でした。ご参考までに。

毎月第1・3木曜日更新

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著者
渡辺優プロフィール

渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。


イラスト
内山ユニコプロフィール

内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com