05 食べ物

 大人としてちょっとどうかと思うくらい、食べ物の好き嫌いが激しいです。それに伴い、苦手な食べ物はありますか? という質問が苦手です。

 

 その質問にシンプルに答えるとしたら、「あります」となるのですけれど、それで話は終わりません。それって大抵、お店を選んだり料理を作ったりする人が、こちらの苦手な食べ物を出さないようにと善意で聞いてくださる質問だと思うのです。だから、「へーあるんですね」では終わらず、いったいなにが苦手なのかという踏み込んだお話に進みます。たぶん一般的な大人の会話としては、そこで二、三品苦手な食品の名前を挙げるのかなと想像します。でも私は嫌いな食べ物を本気で全部言おうとしたら百くらいはあるんじゃないかと思います。そうなってくるともう食べられる食べ物を挙げたほうが早いんじゃないかなと考えたこともあるのですけど、好きな食べ物もたぶん百くらいあります。

 

 軽い気持ちで尋ねたナチュラルな質問に対して、いきなり百も食べ物の名前を答えてこられたら嫌じゃないですか。なんならちょっと怖いじゃないですか。なので私は苦手な食べ物はありますか? に対しては「ないです」と答えることに決めています。「ありすぎるので逆に気にしないでください」を突き詰めていったらそうなりました。

 

 特に子供のころは、偏食で苦労しました。昔は学校給食を残すことが許されなかった、というような話をよく聞きますが、私はそのぎり最後の世代あたりだったのだと思います。完食するまで拘束される、というようなことはなかったのですが、小学校一年生のころに受け持っていただいた先生は、「給食を残すときは教師に報告し謝罪をしなければならない」というルールを敷いていました。給食に嫌いな食べ物が出ない日は一日もなかったので、私は毎日謝罪をしに行っていました。毎日繰り返すとそれはもう習慣というか日課というか、果たしてこれはなんのために? みたいな感覚すら薄れ、たぶん先生の狙いだったであろう「食べ物を残すという罪について考える」みたいな意味合いも台なしにしていただろうなと思います。そしてこのあたりで私の中に平気でペラペラの謝罪ができてしまう人格が築かれたきらいがあります。

 

 食べ物を残すのは悪だ、という感覚は私にもあります。シンプルにすごくもったいないです。バランス良く食べるのが身体(からだ)に良い、というのもわかります。身体に良い、って生き物としてめちゃくちゃ優先させるべき事項だと思います。なんでも食べられたほうが世界にも自分にも良いということは自明なのに、なぜ私は好き嫌いをしてしまうのでしょう。もう大人なのに。

 

 今考えてみて思ったのは、好きな食べ物がすごく美味(おい)しすぎる、ということでした。食べ物の美味しさってすごい。美味しすぎて笑顔になったり笑ってしまったりします。別になにも面白くないのに。うわ! うまい! って本気でびっくりすることもあります。美味しさは感情を(じか)に動かす感じがします。

 

 逆に嫌いな食べ物の美味しくなさたるや。本当に悲しく絶望的な気持ちになりますし、なんなら意に反してのみ込めなかったりします。無理してのみ込んだ後もしばらく気分が悪かったり。「身体が毒と判断している」という説を聞いたことがあるのですが、なぜそんな判断を? 私は毒じゃないと知っているのに。脳のバグなのでしょうか。

 

 とにかく、好きな物を食べたときと嫌いな物を食べたときに感じる幸福の度合いが両極端すぎるので、好き嫌いを克服しようというモチベが上がらないのかなという気がしてきました。好きな物だけを食べて生きていきたすぎる。
 なにか将来的には、脳に電極を刺してビビビって感じで好き嫌いが治るかもしれないと期待します。輸血や臓器移植を受けると食の好みが変わるという話も聞いたことがあります。輸血を受ける際にはぜひ健啖家(けんたんか)の血をお願いしたいです。もしも私の血液を輸血された方、好き嫌いが増えたらすみません。

 

 でも偏食で良かったと思うこともありますので、お伝えしておきます。ファミレスとかでメニューを選ぶのがすごく早いです。ファミレスとかチェーン店の居酒屋とかって、メニューがものすごく多いじゃないですか。私は偏食により、それを瞬時に三択くらいに絞ることができます。好き嫌いのないひとって、あの膨大なメニューの中からいったい何を頼りに一品を選んでいるのか不思議です。偏食で良かった点は以上です。

毎月第1・3木曜日更新

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著者
渡辺優プロフィール

渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。


イラスト
内山ユニコプロフィール

内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com