06 眠り

 けっこうロングスリーパーです。なにもないときは九時間くらい眠り、本当になにもないときは十二時間くらい眠ります。六時間睡眠とかでも生きられないことはないのですが、連日となるとだいぶつらいです。そしてたぶん夜型なので、六時間睡眠で五時起きみたいな日々がいちばん(こた)えます。

 

 でも今社会は朝方人間のための仕組みになっているじゃないですか。九時とか八時半とかに授業や仕事が始まる。笑わせないでほしいです。そんなにはやく起きられるかよ。わりと田舎(いなか)に住んでいるので、学校や職場につくまでに一時間はかかります。そして朝は眠いので動作も遅く諸々(もろもろ)の準備に二時間はかかります。九時に着こうと思ったら六時起き。一度のアラームでは起きられないので五時半から十分おきにスヌーズ。五時半って冬は日の出前で暗いんですよ。暗い時間に起きるということを動物としての本能が拒みます。まだ眠いのに起きるっていうのは生物として完全に正しくないです。

 

 眠いのに起きるときのつらさってヤバくないですか? 本当に、「ギャー!」っていうレベルのつらさじゃないですか? 毎朝いちばんに「ギャー!」ってつらさがあるというのはとても(すこ)やかな日々とは思えません。高校時代が眠気のピークでいちばんつらかったです。毎朝「ギャー!」を乗り越えてベッドから出るたびに、もう夜までベッドに入れないのだという事実に絶望していました。電車の中とか授業中とかに寝るんですけど、私はベッドで寝たいのです。人間らしく。

 

 大人は職業選択の自由が与えられてますのでまだ自分でどうにかできますけど、義務教育の学校って本当にどうして朝からやってるところがほとんどなのでしょうか。どうかシフト制にしてほしい。そしたら夜型若者のストレスが減ってそれに伴う争いやなにやらも減って幸福な若者が増えると思うのです。というか一般企業もまだまだ朝方が多いのでぜひすべてシフト制にしましょう。(あわ)せて労働時間も減らしましょう。幸福なひとびとが増えます。減った生産力はロボットに補ってもらいます。はやくロボットに甘やかされた堕落した人類の時代が来てほしい。

 

 眠ることを愛していますが、同時にショートスリーパーのひとを本当にうらやましくも思います。起きている時間が長いということは人生が長いということではないでしょうか。そのぶん早く死ぬ、という説も聞いたことがありますが、めちゃめちゃ寝て長生きするより若くて元気のあるときを長く起きていた方が楽しいことも多いように思います。朝は早く起きてランニングしてから仕事に行って習い事に行って帰ってきてからもなにかしらの趣味をやって夜遅くまで起きてる、みたいなひとの話を聞くと、まるで一日が四十時間くらいある別の惑星の話みたいで素敵です。彼らが快活に過ごしている時間をただ眠って消費しているなんて自分はバカかよと思います。でも実際彼らみたいな生活をしたら三日で情緒不安定になって泣きながら早退して寝る気がします。向き不向きに(あらが)ってつらい思いをしてまでランニングしたいわけでもないし。逆にショートスリーパーのひとを無理やり寝かしつけてそのまま十二時間寝てろ、みたいに強制したりしたら「ギャー!」ってレベルでつらく感じたりするのでしょうか。

 

 感じたりするのでしょうか? なんて他人事(ひとごと)みたいに言いましたが、寝なきゃいけないのに眠れないのって超つらいですよね。知っています。私は翌日に楽しいことが控えていたりするとわくわくしてぜんぜん眠れなくなります。
 自分はわくわくすると眠れない人間なんだとわかっているので、すごく()めた心でベッドに入るようにはしています。そして自らにわくわくしてはいけない……わくわくするな……わくわくしないでくれ……と言い聞かせるのですけれどいけないと思うほどわくわくしてしまって駄目です。ベッドの中でひとりわくわくするだけの不毛な時を何時間も過ごしていると「ギャー!」っていうより「アアー!」って感じに(つら)くなり、わくわくという感情そのものを憎み始めてしまいます。

 

 騒がしい場所で眠るのも苦手です。一時期、隣の部屋にすごく声が大きくテンションの高い大学生が住んでいたことがあって、朝の四時くらいにフー! ってテンションで帰ってくるのでぶっ殺してやると思っていました。連日睡眠を妨げられてちょっとおかしくなっていたと思います。眠れないって本当にすごいストレスで容易にひとの心を病ませるなと学びました。超ハイテク耳栓を購入してなんとかしのいでいたのですけれど、隣人はある日同棲(どうせい)していたっぽい彼女とめちゃくちゃ大喧嘩(おおげんか)をして間もなく引っ越していきました。彼女も声が大きかったので喧嘩の内容もすべて聞こえてきたのですけれど、もうちょっとお互い冷静に話し合えていたら違った結末もあったのではないかなあ、と完全なる部外者としては思いました。
 とにかく睡眠って大切です。好きなだけ寝たり寝なかったりできる未来がはやく来ますように。

毎月第1・3木曜日更新

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著者
渡辺優プロフィール

渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。


イラスト
内山ユニコプロフィール

内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com