12 顔

 ひとの顔を覚えるのが苦手です。

 

 一回会っただけで覚えられることはまずないです。二回でもほぼ無理です。三回くらい会えば、特徴的な顔のひとならなんとか。でも、もう五回以上お会いしているのに、いまだに顔を思い出せないひとも何人もいます。

 

 脳の疾患等、様々な要因でひとの顔を識別できない「相貌失認(そうぼうしつにん)」という症状があります。自分もそれなのかな? と考えたことがありますが、私の場合じっくり時間をかけて何度も見れば覚えられるので、単に記憶力や注意力の問題な気がしています。
 ひとの顔の覚えにくいポイントは、3Dである、というところにあると思います。立体を記憶するのって、平面を記憶するよりはるかに難しいです。角度によってだいぶ見え方がかわるので。
 それからバリエーションの少なさ。ひとの顔ってパーツの数と配置は皆ほぼ一緒で、目だって大抵目の形をしているし、口は口の形をしています。よく見ると違う、ということはわかるんですけど、そんな微妙な違いの顔よりも、髪型とか身長とか喋り方とか服装とか特徴のよりはっきりした印象に引っ張られて、そちらで記憶してしまいがちです。

 

 一番困るのは、一度お会いしただけの方と、駅などひとの多い場所で待ち合わせをする、というシチュエーションです。あなたの顔を覚えていないので服装を教えてください、と言うのはなんだか失礼に当たる気がして、恐る恐る現場に向かいます。見れば思い出す、というパターンもあります。こちらに笑顔を向けてくださっているのでたぶんこのひとだな、と判断できることも多いです。こちらからあたりをつけたひとに笑顔を向けてみると大抵、え? みたいな顔をされて別人であることが多いので、受け身で待つのがベストです。

 

 実生活での困難ではないのですが、映画やテレビドラマなどを見ていて悲しい気持ちになることも多いです。

 

 よく、いかにも意味深な感じに顔を隠した人物がここぞという場面でフードを取って、ババーン! こいつでした! みたいな演出で出てくることってあると思うんですけど、そういうときは大抵、誰? となってしまいます。
 ぎりぎり覚えていたとしてもあーこのひと絶対見たことあるけど誰だったかな? という薄い記憶であることが多いので、誰だかすごく気になる、という状態のまま物語は進んでぜんぜん集中できません。

 

 その後の会話でそいつは死んだと思われていたあいつだった、みたいなことに気付くんですけど、そんななにげない会話のシーンでえー! あいつじゃん! とびっくりしてしまうのが、ドラマの登場人物たちのテンションとの間に温度差を感じて嫌です。ババーン! のシーンでもうみんなびっくりし終わってるので、私だけ仲間じゃないみたいな疎外感を覚えます。

 

 なぜひとの顔を覚えるのが苦手かというと、すごく思い当たるふしがあります。
 私は幼少期、ひとの顔を見て話すのが苦手な子供でした。というか、ひとと話すときって相手の顔を見るものなのだ、と知ったのがそこそこ大人になってからで、ひとりカルチャーショックみたいなものをうけた記憶があります。つまり、ひとの顔を判別するためのサンプルが記憶の中に少ないのかな、と。

 

 幼少期にポケモンばっかりやっていた子供は、大人になってからもポケモンを見分ける能力に()ける、という研究結果をワイアードジャパンの記事で見ました。ポケモンって知らないひとから見たら似たやつも多くて千匹近い全種類なんてとても覚えられないけれど、子供の頃からポケモンに親しんできたひとの脳にはちゃんとそれを見分ける用の領域が発達している、という。

 

 私が子供の頃はまっていたゲームのひとつに、『アストロノーカ』というタイトルのものがあります。近未来の宇宙で農家になって、宇宙野菜を育てる、というゲームです。配合マシンで種を品種改良してより良い野菜を作り、宇宙野菜コンクールで優勝するのがメインの目的です。
 改良を重ねた野菜は少しずつ大きさや形や模様のグラフィックが変わっていくのですが、当時私はその微妙な違いを完全に見分けて記憶していました。
 これは「魔神形状面白模様やや小の宇宙マメ」で、これは「稀少模様ふしぎな形超ビッグな火星カボチャ」だな、というように。

 

 ひとの顔を見分けるための領域を宇宙野菜に使ってしまっていたのかもしれません(個人の想像です)。
 今からでもどうにか取り戻せるように、今後はひとの顔をちゃんと見るように心がけたいと思います。ゲームはきちんと時間を決めてやろうと思います。

毎月第1・3木曜日更新

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著者
渡辺優プロフィール

渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。


イラスト
内山ユニコプロフィール

内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com