18 夢

 日記をつけるということに何回かトライしたことがあるのですけれど、結局いちどもまともに続いたことのない人生です。続かない理由はひとえに面倒くさいからです。いちにちの出来事を記すって、すごく面倒くさい。だって今いちにちを終えたところなのにそれを朝から振り返って書くって、そんなまるで、二回続けて同じ映画を見るような……。それを毎日繰り返すなんて、とても無理です。

 

 そんなわけで、一般的な日記は三日と続いたことがないのですが、それよりはまあまあ続いていた習慣に「夢日記」があります。眠っている間に見た夢を日記に記すという。
 夢日記を始めようと思った動機は、夢の内容を覚えていたいからでした。私は夢を見るのがすごく好きです。昔からヒマさえあればテレビゲームばかりしていたので、夢の内容もゲームの世界が舞台だったり、魔法が使えたり、グレネードランチャーが撃てたりといった楽しいものばかりでした。
 でも、夢って起きて少しすると綺麗(きれい)に忘れてしまうじゃないですか。私は睡眠時間が長いので夢もたくさん見るのですけど、たくさん夢を見たな、楽しかった気がする、という記憶は残っても、その内容はほとんど脳に(とど)まってくれません。それが悲しくて、楽しかった夢を何度も思い返して反芻(はんすう)したくて、高校生くらいのとき枕元にノートを置いて、朝起きたらすぐに夢を記録できるようにスタンバイして、夢日記を開始したのでした。

 

 たしか一、二週間くらいは続けていたと思います。楽しい夢をちゃんと記して読み返して楽しんでいました。今でもすごく覚えているのは、俳優のオダギリジョーさんにものすごくオシャレな賃貸物件を紹介してもらった夢と、テレビゲームの『バイオハザード3』に出てくる「追跡者」という敵と仲良くなって一緒にキャンプした夢です。やっぱりきちんと書き記しておくと、夢の記憶も後々まで脳に定着するのですね。書いておかなかったら絶対に忘れていた内容だったと思います。

 

 すごく楽しかったのに()めてしまった理由は、寝起きはどうしても眠かったからです。朝起きてすぐそこそこの長さの文章を書くって、つらいです。そんな時間あったら寝てたいのです。ああ、今の夢すごく楽しかった、という喜びと、ものすごく眠い中ペンを握って文字を書くのが面倒くさいという苦しみが混ざり合い、混沌(こんとん)とした目覚めになるのが嫌でした。私は眠り続ける方を選びました。

 

 ちょっと話は変わるのですけど、少し前にネット上で、『DMAE』というサプリが話題になりました。「集中力を高める」系の。魚などに含まれる成分で、美容などにも効果があるとされているらしいです。なぜこのサプリが話題になったかというと、副作用として「悪夢を見る」という不思議な効果があるらしい、とささやかれていたからでした。ロマンチックですね。

 

 悪夢って、怖いです。下手(へた)なホラー映画よりずっと怖いです。まず臨場感が違います。心臓がばくばくして汗まみれになって飛び上がるようなホラー映画ってなかなかないです。穏やかな眠りの中でそんな悪夢にふいに出会ってしまうのはすごく嫌ですけど、でも、さあ悪夢を見るぞ! と覚悟を決めて取り組む悪夢なら体験型エンタテインメントとしてエンジョイできそうな気がしました。ホラー映画は見終わった後も思い出して怖いのがつらいけれど、夢ならすぐに忘れます。集中力が高まって美容にも効果があってエンタメ体験までついてくるなんて、なんて贅沢(ぜいたく)なサプリ。

 

 勇気を出して買ってみました。そして今、きちんと毎日飲んでいるのですけれど、まだ悪夢は見られていないです。今私は『エースコンバット7』というゲームをプレイしていて、自分が撃ったミサイルがなかなか敵に当たらなくてイライラしながら負ける、みたいな夢を見たような記憶はうっすらあるのですが、それは別に現実のゲームでもよくあることなので悪夢にカウントするのは微妙な気がします。集中力も高まっていないです。この文章を書くまでにも百回くらい中座しました。美しくもなっていないです。引き続き飲み続けて経過を見たいと思います。

 

 そもそもなぜサプリによって悪夢を見るのか、そのメカニズムや真偽についてはちらっと調べてみたけれどよくわかりませんでした。ネットで「DMAE 悪夢」で検索してみると、「悪夢が見たいのでDMAEを試してみました!」という愚かなヒューマンの記事ばかりが出てきてしまうのでした。私もそんなヒューマンのひとりでした。
 みんなやっぱり夢が好きなんですね。みんな悪夢でもいいからなにかしら見たいのですね。現実よりマシですものね。

毎月第1・3木曜日更新

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著者
渡辺優プロフィール

渡辺優(わたなべ・ゆう)
1987年宮城県生まれ。宮城学院女子大学卒業。2015年『ラメルノエリキサ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。著書に『自由なサメと人間たちの夢』『地下にうごめく星』などがある。


イラスト
内山ユニコプロフィール

内山ユニコ(うちやま・ゆにこ)
北海道北見市出身、東京都在住。20代の終わりより作品制作を始める。花田菜々子著『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』のイラストなどが話題に。
オフィシャルサイト:http://www.vesicapisis.com